事例概要
北海道十勝地方を中心に病院、クリニックなどを展開する社会医療法人北斗は、電子カルテ端末約800台のインターネット分離によるインターネット接続を計画した。そして、ジェイズ・コミュニケーションの「RevoWorks SCVX」を導入し、電子カルテ端末からセキュアにインターネットにアクセスできるようになった。これにより、医師をはじめとする医療スタッフ、職員の業務効率が改善した。
予防医療と精密医療に取り組み、広域の医療圏にICT活用で対応
社会医療法人北斗(以下、同法人)は、1993年、「地域に開かれた医療の展開」を基本理念に、脳神経外科を中心として155の病床を持つ北斗病院として北海道帯広市でスタートした。1996年には医療法人社団の認可を受け、現在、北斗病院、北斗クリニック、十勝リハビリテーションセンターを中心に、十勝地方で病院、クリニック、介護老人保健施設・介護施設、道外では埼玉県の熊谷総合病院などを運営している。
同法人では、発症する前に病気を発見し、発症しないように対応していくことを21世紀の医療の核と位置づける「第二次予防医療」のコンセプトに基づき、行政との連携も含めた医療活動を積み重ねてきた。
また、ゲノム解読によって医療は大きく進化するという予見のもと、2008年に基本理念を「革新に満ちた医療の挑戦と新たなる組織価値の創造」に再設定した。最先端の医療機器による診断や治療、病理・遺伝子診断科や精密医療センターによる生活環境やライフスタイルにおける個々人の違いを考慮して疾病予防や治療を行う「Precision Medicine(精密医療)」も積極的に推進している。
十勝地方は、東京・埼玉・神奈川を合わせた面積よりも広い、日本最大の2次医療圏を形成している。急性期病院は帯広市に集中しているため、同法人ではICTを活用した医療活動に力を注いでいる。「遠いところだと、帯広の病院まで救急車で搬送するのに1時間半から2時間かかります。予め受け入れ体制を整えておくことで、搬送後すぐに治療や手術ができるよう、最寄りの医療機関から画像配信システムでX線写真などの遠隔診断を行います。場合によっては搬送せずに現地で対応するという判断もできるので、救急車の効率的な運行につなげることができます」と同法人 法人本部 事業推進部 副部長 システム管理課 課長 大元 誠氏(以下、大元氏)は話す。
5つの医療施設で利用する電子カルテ端末でのインターネット接続を計画
同法人では、帯広市の5施設をひとつのネットワークで運用している。そこでは電子カルテ端末約800台、インターネット接続専用PC約50台を使っており、電子カルテ端末は電子カルテシステムだけに接続され、インターネットでのメールのやり取りや検索はPCで行っていた。「最新の医薬品の調査や医療支援の確認など、治療や看護で必要なことが多いため、インターネットが使える環境を用意していました。それでも利用する際にはPCまで移動しなければならず、医療スタッフは不便さを感じていました」と同法人 法人本部 事業推進部 システム管理課 主任 清水 俊宏氏(以下、清水氏)は説明する。
同法人では、最先端の医療機器の活用や、遠隔地のクリニックや病院での電子聴診器など、ICTによる遠隔診療に取り組んでいる。しかし、インターネットが限られた台数のPCでしか使えない環境では、インターネット利用を前提としている遠隔診療に支障をきたしかねない。まず、同法人では、インターネット接続ができるPCを増やして、診察室に電子カルテ端末とPCを1台ずつ設置することを考えた。ただ、その方法では機器の費用がかさみ、ネットワークも別に敷設しなければならないため、現実的ではないと判断した。利便性を向上させながらセキュリティも確保するため、電子カルテのネットワークとインターネットを論理分離する方式で、電子カルテ端末からインターネットに接続する方法を検討することにした。「医療機関では医師、看護師、薬剤師、療法士など国家資格を持っているスタッフが多数働いています。その資格を持った人にしかできない、本来の仕事に集中してもらえる環境を整えることが大切だと考えています。そのためにICTの活用を模索し、新しい提案を法人内で行っていて、今回の仮想ブラウザによる論理分離方式の採用もそのひとつです」(大元氏)。
低コストで運用可能、ユーザーの利用もスムーズなため、他の施設でもSCVXを導入予定
仮想ブラウザによるインターネット分離を行うにあたり、同法人では複数の製品を比較、最終的にジェイズ・コミュニケーションのインターネット分離ソリューション「RevoWorks SCVX」(以下、SCVX)の導入を決めた。「電子カルテの端末台数が800台とかなり多いこともあり、同時アクセス数のライセンスでカウントするSCVXであれば、比較的低いコストで運用できると考えました」(清水氏)。
SCVXの導入は2021年5月から始まり、テスト期間を設けて、2021年10月中旬に150ライセンスが利用できるようになった。電子カルテ端末は約800台、ユーザー総数は1,200名ほどになるが、トラブルもなく、導入は順調に進んだ。利用開始直後は操作上の問い合わせもあったが、現在ではほとんどなくなり、SCVXはスムーズに利用されている。電子カルテ端末からのインターネット接続時には、毎回新しくコンテナが作成されて、仮想ブラウザが起動する。仮想ブラウザ終了後、コンテナは削除され、コンテナ内のデータも全て削除されるため、安全なインターネット接続が可能になる。また、ローカルブラウザのような違和感のない操作ができ、ファイル無害化も簡単に行うことができるため、業務効率が大幅に向上した。
同法人では、2023年度に法人全体のネットワークセキュリティのレベルアップを計画している。そのなかで、他の施設も今回の5施設と同じくSCVXの導入も含めて検討・構築し、利便性が高くセキュアなネットワーク環境にする予定だ。停電などの災害時でも診療や治療を止めないよう、BCP対策もシステムとデータ両面で強化していく。あわせて、音声認識システムによるカルテ入力作業の省力化など、ICTの積極的な活用で働き方改革を推進し、地域の重要な社会資源として医療のさらなる充実と高度化を図っていく考えだ。
社会医療法人北斗
所在地
北海道帯広市稲田町基線7番地5
開設
1993年
院長
鎌田 一
事業施設
北斗病院、北斗クリニック、十勝リハビリテーションセンター、サービス付き高齢者向け住宅あやとり、十勝自立支援センター介護老人保健施設かけはしなど、計17カ所。